パァーーーン!!
俺の1日は電車の扉開くと同時に、脳内で号砲一発切られるところから始まる。
電車から降りた乗客一同は、我先にとSを取りに行き、その中に会話したことない期間工の同期も紛れている。
俺はそんな争いを尻目に、いつもの定位置、最後方からスタートする。
改札を出るといつものコンビニで、肉まんにワンダモーニングショット、労働中のエネルギー補充にアルフォートを購入してからレースに復帰するのだが
生憎、この日の肉まんは売り切れ。
その代わり、100円高い特製肉まんならあるのだが、そこは我慢してピザまんに逃げる。
昨日、ギャンブルで数万、数十万失った奴が、なんとも情けない話だ。
そんな事を考えながら歩みを進めると、工場へ向かう道幅は次第に狭くなっていき、気づくとS取り争いも落ち着き、隊列は一本棒へ。
中には
仲の良い期間工同士で、二車あるいは三車並走する馬鹿もいるが、基本は皆己との戦い。
ラインは組まない。
さて、そんな状況を後方で眺めながら朝食を済ませると
徐々にペースを上げていき、一人、また一人と抜いていく。
先団に取り付くと、先頭にいる奴の歩きスマホで全体のペースが遅くなっており、S争いに参加していた同期も確認した。
まだ、こんな所にいたのか…
どうやら足が重いのか?
歩きスマホの番手にすっぽりハマっている。
俺も足が重い。
それなら3番手で一旦落ち着くか考えたが、このスローな流れには収まりたくない。
そのまま自力まくりを敢行し、あっと言う間に先団を飲み込んで先頭に立った。
しかし、すぐ後ろで足音がする。
確認すると、同期が切り替えて俺の番手にハマっていた。
年上同期を逃がすなんて、いい度胸してるじゃねぇか。
俺は高回転のまま速度を落とさず、一気に突き放す!
完全な独走状態に大勢決した…
かと思いきやが
もう一つ前の集団が現れた。
どうやら第2先行という形になったわけだが、ここで足は緩めるわけにはいかない。
歩きスマホのふらつき野郎が横の仕事をしてくるが、難なく交わし、ゴールとなる入退門でハンドル投げさながら頭をふる。
着順は?
いや、何着だろうと関係ない。
このレースはもちろん賞金は支払われない。
この中で8時間労働すれば誰もが日当を貰え、残業すれば時給換で1.3倍だ。
忙しい現場もそうでない現場も同じ。
評価も何もない。
中には気に入られて正社員になる者もいるが、この仕事を生涯やっていこうとするのは尊敬する。
借金がある者、これから起業する者、就職に失敗した者、夢を叶えようとする者
色々な思惑の人間がこの工場に集まる。
俺は己のために、あと何回号砲を聞けばいいのか。
パァーーーン!!
また今日もスタート合図が鳴り響く。
コメント
年上同期を逃がす。笑いました。
チャレンジ戦の若手みたいな走りでした。